腹腔鏡下手術(腹腔鏡手術)とは、一言でいえば、できるだけ痛みがなく体に負担のかからない手術ということです。
外科治療は特に悪性腫瘍などに対しては根本治療として意味がある一方で、体に浸襲を及ぼす点で問題があります。その意味では腹腔鏡下手術は外科のルネッサンスと言えるでしょう。
この手術で何が出来るか
胆嚢結石、一部の胃癌や大腸癌、虫垂炎、脾摘、胃十二指腸潰瘍穿孔などと適応は拡大しています。時には腎・副腎の腫瘍の摘出も出来るようになりました。しかしほとんどが病変を摘出する手術です。ところが、ついに噴門機能障害という体の機能異常を正常に近い状態にもどす手術である噴門形成術をこの方法でできるようになったのです。
逆流性食道炎とは?
逆流性食道炎と言う病名は皆さんあまりご存じないと思われますが、実は非常に身近な病気です。胸焼け・呑酸・げっぷなどを経験した方はわりと多いのではないでしょうか?これらの症状の原因が逆流性食道炎なのです。
本来、欧米人に多い病気でしたが、食生活の欧米化、肥満、高齢化などにともなって我が国でも最近、著明に増加しています。
逆流性食道炎には、ほとんどが食道裂孔ヘルニアを合併しております。これは食道が胃につながる所の通り道である横隔膜食道裂孔がゆるい為、胃が食道側に飛び出た状態です。したがって胃の内容物が逆流しないように働いている噴門機能がうまく働かず、胃または十二指腸液が食道に逆流し、食道粘膜が障害され炎症が起きます。しかし最近ヘルニアが小さくても食道と胃の間の括約筋が弱いだけで、強い逆流症状がみられる方がいることもわかってきました。
食道裂孔ヘルニアとは?
食道裂孔ヘルニアには小児期より見られる先天的なものと、加齢に伴って筋肉がゆるみ発症する後天的なものがあります。したがって10歳代後半から20歳代の若い方と60歳から70歳代の高齢の方と二相性に分布されることが多い様です。
若い方は酸の分泌が強いため、症状が強く、また、長期間ほおっておくと食道潰瘍を形成したり、バレット食道と言って食道、噴門がんの原因になることもあります。一方、比較的高齢の方は腰が曲がり前傾姿勢となったり、食道の括約筋がゆるんだりすることにより症状が現れるなど、主に女性に多い傾向があります。
また、酸の逆流に加えて胆汁や膵液といった十二指腸の消化液が、食道まで逆流する酸とアルカリ(胆汁・膵液)の混合型が時にも見られ、酸のみを抑える治療では改善しない場合もあります。
薬剤治療が医学の最終目標ではない
この病気の治療は逆流する酸の分泌をおさえたり逆流をある程度緩和する薬剤治療が現在主体ですが、基本的には対症療法です。
また、どんな薬にも副作用があり、効く薬とはメスの刃のようなリスクもひめております。一方、外科治療は、先天性の機能異常や老化に伴う機能障害などの根本治療ですが、その負担をできるだけ軽減することが目標と思われます。
経済的には、逆流性食道炎に対する薬と手術との治療経済的比較においても薬はかなり負担があり30年で約648万円かかります。
手術療法(腹腔鏡下)
これは噴門形成術といって、胸に脱出した胃(図1)を正常な位置にもどし緩んだ食道裂孔を縫い縮め(図2)固定する手術です(図3)。最近、この手術が腹腔鏡を使った開腹をしない手術で行うことができる様になりましたので、先天的要素の強い若い方のみならず、高齢の方にも良い適応です。
当院は、腹腔鏡下噴門形成術を茨城県内で唯一行っている病院です。胸痛、しみる、つかえ、げっぷ、食物や胃酸が逆流するなどの胃・食道逆流現象を認める方は、正確な診断と適切な治療で症状の軽快が得られますので、是非ご相談下さい。
腹腔鏡下噴門形成術の手技
図1:胃食道逆流症の病態
図2:ヘルニア襄の剥離・裂孔の縫縮
図3:2/3周の固定術(Toupet fundoplication)
手術後の効果は良好
表2に示すように問診票で患者様の症状の改善をスコア化し、客観的に検討しますと、手術前の逆流のスコアが、術後著明に低下しております。又、手術前には、全員の方が内服されていた制酸剤(PPI)は、一名をのぞいては使用しなくてもすむように症状は消失しております。
今後、ますます腹腔鏡下手術の技術を高め更なる病気への対応を目指したいと考えております。